鉄仮面! / Hank Mobley

https://youtu.be/yeJIsNGyFac

私のお気に入りアルバムの一つはHank Mobley のHank Mobley だ。 何だかややこしいが、ジャズメンとアルバムの名前が同じなのだ。

このアルバムを初めて聞いたとき、ポーターの瀟洒で道化的、それでいて緊張感のあるプレイに痺れて鳥肌が立った。“凄い”プレイではないが、私の好みにぴったりだったのである。今でもこれを聞くと、何だかくすぐられたような快感を覚える。ポーターのプレイはダイナミクスの付け方や音の割り具合がちょっと変態チックで、そこに魅力があるのではないだろうか。彼のソロは綱渡りのようだ。足がもつれて何度も落ちかけ、ありえない動きでバランスを取り戻しているような感じで、そのスリルが楽しい。というのも、よくDouble Exposureのソロを聞いてみると、ところどころリズムが乱れている。高速パッセージの中で、舌が回りすぎたのか本来は音符1つと思われるところに2つ入っていたり、石に蹴っつまずいたような「フギャッ!」みたいな音が紛れていたりと、結構面白い。その反面、音のカットが鋭く、そのギャップがまた面白い。ここまで書いてきて何だかカーティス・ポーターに申し訳なくなってきたが、最後まで正直に言ってしまうと、そのコケ方が滑稽でまた面白い。これらに気付いてしまったせいで、今聞くと何だか笑えてる。Double Exposureなんて明らかにコケているので、わざとではないように思うが、わざとやってたらなかなかユーモアのある人だなぁ、なんて思った。ふわっと適当に吹かれているのにそれらしく聞こえてしまうから不思議だ。

しかしこのアルバムで良いプレイをしているのはポーターだけではないと思う。トランペットのビル・ハードマンも引けを取らない快演だろう。ソロのあっちこっちでひねりを入れていて、少々こねくり回した感が耳につくかもしれないが、なかなか多彩で面白いソロを聞かせてくれる。私はこのくらいクセのあるプレイのほうが好きだ。モーガンのような流麗さと華麗さは無いため地味に聞こえるが、耳が慣れてくるととても心地よいツボにはまるプレイだと思う。ハードバップ好きにはたまらない。2曲目のテーマなんてなかなかいいでないか。恋に落ちそうだ。

また私はソニー・クラークが大好きなのだが、このアルバムでは大いに張り切ってプレイしていて嬉しいかぎりだ。これは57年に録音されたものだが、この頃のソニーは瑞々しく粒立ちの良いプレイをしている。少々ブルーノート初録音にしては生意気とも思えるくらい活きが良い。Bag’s Grooveなど、テーマの裏でもアドリブプレイを入れてホーン陣にドンドン絡んでいる。Falling In Love With LoveやDouble Exposureのソロでも息の長いプレイをしていて調子の良さがうかがえる。よく言われる「後ろ髪惹かれる」プレイの良さがよく出ている。やはりとても心地よい。

革新的だったり大きな特徴があるわけではないが、こういうハードバップはやはり好きだ。聞いても聞いても飽きが来ない。噛んで噛んで噛みだめだけになってもなお味がする。忙しない日常の中に、こういうアルバムを聞いて味わう、現実の時間とは違う時間があるのは豊かなことだと思う。大切にしたい。


Notes

Hank Mobley

Bill Hardman, trumpet

Curtis Porter, alto-saxophone

Hank Mobley, tenor-saxophone

Sonny Clark, piano

Paul Chambers, bass

Art Taylor, drum

Blue Note 1568

recorded on April 21, 1957

評価 :4/5。

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投稿者: 早春

音楽を動力に、書物を枕に、映画を夢に見て生きる生意気な青二才。現在19歳。一粒の向日葵の種まきしのみに荒野をわれの処女地と呼びき。さる荒野にまだそこらの向日葵はあらねども、徒然なるままに、そこはかとなく書きつくれば、方片なき荒野の早春の日ものたりのたりかな。年経ればいま過ぐる日々をいかが思ゑむ

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