人間の態度によって、世界は2つとなる。
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魅力的なものとそうでないものがある。何が魅力的で何がそうでないのだろうか?これは形質の問題に収まらない。醜悪であっても魅力的であり得るし、美しくとも魅力的であるとは限らない。では何が雌雄を決するのか?それはホンノチョットの差である。
ホンノチョットの違いで落書きは美術になり、戯言は哲学となり、蛇足は魅力となり、苦は快となり、醜は美となる。
相対比較の客観的な視座の下では「真」と「偽」のたったの2つにしかなり得ない。何十何百とあるものが、不思議にも、ただの2つになってしまう。
しかし、「真」は「偽」でもあり、「偽」は「真」でもある。
ここで言うホンノチョットとは、方程式のaである。イコールの反対側が「幸福」で、こちら側にaと諸条件の変数x ー 場所や時間や周りの人や物 ー だ。定数aは秘密の魔法である。
この小説のテーマはホンノチョットである。ホンノチョットによって人を排斥する仕事の中で、ホンノチョットを見出し、その魅力に魂を捧げる人物が主人公である。ホンノチョットは来て、去ってゆく。人はそれを予知したり防いだりすることはできない。それはただ来て、去るのである。
ただし、ただ、と言っても人にとってその去来は一大事である。生き死ににすら関わる。ホンノチョットなしに人生を全うすることはできまい。少なくとも私には無理だ。想像しただけで身の毛がよだつ。
「僕も、黒く虚ろな書類カバンの中へ。パチンと締まる音がすると ― 太陽も主題も痛みも幸福も嘘も真実もありゃしない。」
ホンノチョットを愛そう。ホンノチョット愛そう。人生にホンノチョットを。